6/30/2009

Translating "Remix" by Lawrence Lessig : Girl Talk part

別のところでちょっと話に出ていたので、ローレンス・レッシグの"Remix"から、Girl Talkに関するパート(PDFバージョンでP35からP39まで)を抜き出して簡単に訳してみました。まだ"Remix"全体を通して読んでないので全体の文脈との齟齬や事実誤認もあるかも知れないですが、何かのお役に立てばと思います。

"Lawrence Lessig : Remix -Making art and commerce thrive in the hybrid economy"


Lawrence Lessig / CC BY-NC 3.0

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Gregg Gillisはピッツバーグ出身の25歳で生物医学のエンジニアだ。彼はまた、"mash-up"あるいは"remix"と呼ばれる、ここ最近盛り上がりを見せている音楽ジャンルにおいて最も注目を浴びる新進アーティストの一人でもある。Girl Talkというのが彼のワン・マン(プラス、ワン・マシーン)バンドの名前だ。Girl Talkはこれまでに三枚のCDをプロデュースしており、その中でも2006年度にRolling StoneやPitchforkなどで年間ベストの一つに選ばれた"Night Ripper"がもっともよく知られている。2007年の三月には米議会にて、「地元の青年がよくやっとりまっせ」ということで、民主党の下院議員Michael DoyleがGirl Talkの新しいアートのかたちを賞賛した。



「新しい」というのも、本質的にGirl Talkの音楽とは他のアーティストから引っ張って来た大量のサンプルのミックスのことだからだ。たとえばアルバム"Night Ripper"では、167組のアーティストからサンプリングした200から250ぐらいのネタをリミックスしている。「一例を挙げてみるとですね」ドイルは議会での報告を続ける。「(Girl Talkは)Elton JohnにNotorious B.I.G., それにDestiny's Childをそれぞれ30秒ほどずつの長さで混ぜ合わせているのです。」ドイルはおらが町の英雄を誇りに思っているようだった。「まあみなさんここは一歩引き下がってですね、」この新しいアートのかたちをよく見るようにとドイルは同僚の議員たちに呼びかける。「おそらくマッシュアップは今まさに変化の過程にある新しいアート、消費者の経験を拡張するようなアートなのではないでしょうか。そしてそれは他のアーティストがiTunesやCDショップに商品を置くこととも競合しないものと思われます」

このドイルの発言が燃料として投下されたことで、Girl Talkに対して一勢にメディアの注目が集中することになった。しかしそれは一方で、Girl Talkの音楽のディストリビューターたちの間に不安を覚えさせることにもなった。たとえばもしあなたがアメリカのどこかのレーベル専任の弁護士に届け出さえすれば、彼もしくは彼女は速やかにオノ・ヨーコ化(訳注 : この章の前の部分で出てくる議論に関係する)するだろう。「許諾が、法的に、不可欠なのよ。(Permission is vital, legally.)」と。つまりGillisが実践していることを法律に鑑みると、Girl Talkの音楽は犯罪行為なのだ。Appleは"Night Ripper"をiTunes Music Storeからはじき出したし、eMusicはそれより数週間前にすでに同じことをやってのけていた。あるCD制作会社に至ってはCDをプレスすることすら拒否したぐらいである。

Gillisは15歳のときから音楽をつくり始めた。地元のラジオ局から流れてくる実験的な電子音楽を聴きながら、「ボタンを押したりペダルを踏んだりしてノイズを出して、それを人前でライブとして演じてるような人たちの世界を見つけちゃったんです。」「もうほんとブッ飛びましたよ。マジで。」とGillisは語ってくれた。彼は16歳のときには「ノイズバンドを組んでましたね。ノイズっていうのは、その、ものすごく、アヴァンギャルドな音楽なんですけど...」

その後数年にわたって、「前衛」の場所はアナログからディジタル - すなわちコンピュータへと移行する。ワンマンバンドGirl Talkは2000年の後半に、大学生活のために購入したToshibaのマシン上で結成された。Gillisはこのマシンに大量のオーディオ・トラックとループをロードし、Audio-Mulchというソフトを使って、パフォーマンスのためにトラックをツギハギしたりリミックスしたりした。私はGirl Talkのライブを見たことがあるが、録音物としてのリミックスと同じくらい素晴らしい演奏だと思った。

当時GillisのGirl Talkとしての人生は始まったばかりだったが、早くも法的な問題の影が彼に迫っていた。彼のような創造性のあり方が法律にあまり歓迎されていないことはGillisも認識していたことだ。以前彼がこう言ってくれたことがある。「全然怖がっていたわけじゃないんです... そりゃまあちょっと無邪気過ぎたとは思いますけど、でもこんなこと日常的にみんなやってるわけじゃないですか。それにほんの少しの枚数のアルバムしか売るつもりがなければ、誰もそんなことに気づくとは思いませんよね。」しかしもちろん、人々が「気づいてしまった」有名なケースは過去にもいくつかあるのだ。たとえば本書で後に詳しく述べるNegativelandがU2とAmerican Top 40のパーソナリティーCasey Kasamとの間に構えた有名な訴訟沙汰では、彼らがU2のネタをリミックスした録音物をKasamが番組で紹介したことによってNegativelandは権利者と争うことになってしまった。
(訳注 : http://www.wired.com/wired/archive/3.01/negativland_pr.htmlなどに詳しい)

Gillisもこのケースのことを知っていた。でも彼が私に説明するのを聴いていると、かつて私が「法律とは美しく記述された正義であるべきだ」ということを純粋に信じていた頃のことを思い起こさせる。

「僕は今でも、そのとき感じていたのとまったく同じように感じてますよ。倫理的に言えば、音楽は誰も傷つけてなんかいないと僕も思う。それに誰一人として、(僕がネタをサンプリングしてる)誰かのCDの代わりに僕のCDを買ったりするわけじゃないし。それに...明らかにこの行為はマーケットには影響を与えませんよ。これはブートレグの問題とは違う。もし誰かが本当に問題を抱えてるって言うのなら止める事だって出来ましたけど、僕には誰かがどうしてもそうしなくちゃならない理由なんてわからなかった。」

なぜ誰かが「そうしなくてはいけなかったのか」というのは私にも答えられない問いだった。だが誰かがそのために動いたというのは明らかに予測がつくところだ。この「問題」はダイレクトにではなく、間接的なかたちで浮上してきた。Girl Talk本人に対して訴訟を持ちかけるのではなく、iTunesや他のディストリビューターに指示して彼の作品の配信を停止し、この素晴らしいアーティストと、彼のアートの形態が日の目を見ないようにしたのだ。Girl Talkの「問題」はGirl Talkの成功を閉ざしてしまうことによって「解決」されてしまうだろう。ピッツバーグで、そしてあらゆるところで彼の作品への需要を萎えさせてしまえば彼の提起した「問題」はどこかへ行ってしまうだろうというやり方だ。

Gillisもこの問題がどこかへ行ってしまったということには同意しているが、それはまた全く別の理由においてである。彼自身が私に言ってくれたことによれば、Gillis自身がうまくやれたのだから、すぐに誰もがみな同じことをやることになるだろう。少なくとも、音楽に情熱をもつ人たちはみんな。あるいは、少なくとも、音楽に情熱をもっていて、30歳より若い人たちはみんな。

「僕たちはリミックス・カルチャーの中に生きてるんです。いまの盗用の時代では、その辺にいる小学生の子供ですらフォトショップのコピーを持ってて、ジョージ・ブッシュの画像をダウンロードして顔にいたずら描きをして友達同士で送り合ったりしている。彼らは本当にそういうことをやってるんです。沢山のひとたちが、みんなが曲のリミックスをしてるってことに気づいてきている。ラジオでかかるようなトップ40に入るヒット曲の一曲残らず若い子たちは拾い集めてリミックスしてるんですよ。そのためのソフトウェアもどんどん操作が簡単になってきてるし。あらゆるコンピュータにそういうソフトがインストールされている様はどんどんフォトショップに似て来てますよ。リリースされるPuff Daddyのすべての曲はティーンのガキたちにリミックスされて、ネットにアゲられてるんです」

「でも、なんでこれは良いことなの?」と私はGillisに問いかけてみた。

「こういう動きが良いと思うのは、本質的に、これがまさにフリー・カルチャーだからだと思います。アイデアがデータに出会い、操作され、処理されて、他の誰かに渡されていく。誰もが自分の好きな音楽に参加することが出来るというのは、クリエイティブなレベルでも素晴らしいことだと僕は思っています。伝統的な意味でのミュージシャンである必要は全然ない。一生のうちに一度もギターの練習をしたこともないような人たちから提供されるネタと、生き生きとしたアイデアを得ることが出来ればね。僕は、これは音楽にとって素晴らしいことだと考えていますよ。」

そしてGillisは音楽産業にとっても、これは良いことだと信じている。「経済的な観点からしても、これこそが音楽産業が将来的に生き延びる方法だと思いますよ... こんな感じの、過去のたくさんのアルバムとのインタラクティビティっていうやり方が。プロダクトとしてというよりも、ゲームみたいなもんだと思ってやればいいんですよ。」

Gillisが最後に指摘したポイントは、彼がこのように振る舞っている理由ではなく、実践するための方法に関するものだ。あるいは、この世代の行動論とも言うべきだろうか。「法律家とか歳のいった政治家とかはみんな、この現実に直面させられてるんです。みんなこうやって音楽をつくっていて、ほとんどの音楽は過去のアイデアに由来するものなんだっていう現実に。それにほとんどのポップ・ミュージックは他の人たちの音源素材から出来てるんです。そしてそれは別に悪いことでもなんでもない。そのせいでオリジナルなものをつくれないというわけじゃないんです。」

これらのやり方では、少なくとも今現在は、合法的なコンテンツをつくり出すことは出来ない。現状がどんどん食い違っているにも関わらず、未だに「許諾が、法的に、不可欠なのよ。("Permission is vital, legally,")」
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(translated by h4nz)